第3章

松島桜は指先でティーカップの縁をそっと撫でながら、会議室の床から天井まである窓の外に広がる東京の景色を静かに眺めていた。

彼女の傍らには佐々木健が立ち、先ほど終わったばかりの投資会議の成果を報告している。

「お嬢様、中島さんがすでに入口でお待ちです」

佐々木健の声が、ほどよいタイミングで彼女の思考を遮った。

松島桜はわずかに頷く。

その所作は、茶道の点前のように正確かつ優雅であった。

中島くるみが会議室に足を踏み入れた瞬間、佐々木健は空気の微妙な変化を鋭敏に察知した。彼は軽く咳払いを一つする。

「お飲み物の準備をしてまいります。すぐに戻ります」

ドアが閉まると同時に、二人の女性の視線が空中で交錯した。

松島桜は目の前の女を注意深く観察する——肌は滑らかできめ細かく、さっぱりとした身なりで、艶やかな黒髪は高く結い上げられている。

これこそが、その自由奔放な様で高橋隆を惹きつけた女、中島くるみ。

松島桜は右手を軽く振り、相手に口火を切るよう促した。

「松島さん、あなたと高橋君がもうすぐ婚約式を挙げると聞きました」

中島くるみの声はわずかに強張り、目元が赤みを帯びている。

「高橋君は私たちのことをとても申し訳なく思っていて、私は——」

松島桜のティースプーンがカップの縁を軽く叩き、その澄んだ音が優雅に中島くるみの言葉を遮った。

彼女はこのような低レベルな探りに失望を覚えた。

「中島さん、あちらをご覧ください」

松島桜はわずかに首を傾け、会議室の外にいる佐々木健へと視線を向けた。

佐々木健はお茶を準備しながらも、その視線は松島桜から離さず、彼女のいかなる要求にも応える準備ができていた。

「佐々木君をどう思いますか?」

松島桜は、どことなく誇らしげな響きを帯びた声でそっと尋ねた。

中島くるみは顔色を変え、無理に笑顔を作る。

「彼もまた、優秀な方に見えますわ」

松島桜は優雅に茶を一口啜り、冷静かつ鋭い眼差しを向ける。

「高橋君はずっと、彼が想像するある種の魂を追い求めていますが、他人の偽装を見抜く術を学んだことがありません。そのせいで、格下の者に手玉に取られているのです」

中島くるみの笑みが顔に張り付いた。

「佐々木健のようなT大卒は、いつでも替えがききます」

松島桜はティーカップを置き、その声は人を凍えさせるほどに平然としていた。

「高橋君が追い求める『唯一無二』など、私が重んじるものではありません。私が望めば、いくらでも手に入ります」

「あなたの力の入れどころが間違っています」

中島くるみが反論しようとした矢先、松島桜は軽く頷いた。会議室のドアが音を立てて開き、二人の警備員が入ってくる。

「お持ちの録音機器をご提出ください、中島さん」

警備員の一人が冷静に言った。

中島くるみの顔色は瞬く間に真っ白になり、指が無意識にポケットを探っていた。

その間ずっと、佐々木健の視線はただ松島桜一人にのみ注がれていた。松島桜は彼に満足げに頷いてみせる。

中島くるみは慌ててボイスレコーダーを差し出し、ほとんど逃げるように会議室を後にした。

「まだ他の録音機器を携帯している可能性があります」

佐々木健が注意を促した。

松島桜は首を振る。

「気にする必要はない。彼女はもう、私たちとの格の違いを理解したから」

彼女は茶を一口含み、眼差しに思索の色を浮かべた。

「中島くるみは現実主義者です。自分が何を欲しているか、よく分かっている」

松島桜は、中島くるみが大学卒業前に高橋家の援助を受けて海外へ渡った時のことを思い出していた。

その決断が、彼女を高橋隆の心の中で永遠の高嶺の花にした。彼が手に入れることはできず、それでいて忘れられない存在に。

「野心のある女性は嫌いではない」

松島桜の声は柔らかい。

「私の計画の邪魔をしない限りは」

彼女はティーカップを置き、両目に冷静な光を宿した。

「中島くるみはもう理解したでしょう。私たちはそもそも、同じ土俵で争ってなどいないと。

彼女と高橋隆が求めるものは、私とは全く違うのです」

松島桜は窓の外に広がる東京のスカイラインを望み、口の端に冷笑を浮かべた。

「私の目標は、これまで一度も愛情などではなかったから」

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